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2026.07.10
NEIGHBORS

下町の情緒が色濃く残り、そぞろ歩きを楽しむ人々が行き交う谷中。賑わいを見せる谷中銀座から少し外れた落ち着いた通りに、ブックカバー専門店「旅するミシン店」は店を構えています。
街の風景に溶け込む自然な佇まい。軒先ののれんがその存在をそっと知らせるかのように、風に揺れています。
同店は2012年にオープンしました。もともとは、約50年にわたり地元客に愛されたお寿司屋さんがあった場所です。歴史を引き継いだ空間には現在、ブックカバーを中心とした、様々な手作りの品が所狭しと並べられています。

店内に並ぶ品々には美しいミシンのステッチが走ります。店主の植木(うえき)ななせさんの実家はミシン修理業を営んでおり、幼い頃から物作りは身近なものでした。
社会人になり出版社で勤務する傍ら、バッグなどを制作して手づくり市へ出店するようになります。自身が本好きだったことから試作したブックカバーを出品したところ、好評を博しました。手応えを得た植木さんは、本格的に物作りで生きていくため独立を決意します。
出店の地に選んだ谷中は、休日に遊びに訪れていた馴染みのある街。落ち着いた雰囲気が本やブックカバーのイメージと重なり物件を探していたところ、現在の場所に出会いました。長年商売が成り立っていたという実績から「場所として絶対に間違いない。」と確信したそう。上野の美術館にもほど近い谷中の穏やかな環境にも惹かれ、新たな一歩を踏み出しました。
同店のコンセプトは「旅のお供」。自身が多忙でなかなか旅行に出かけられない分、「せめて製品だけでも」という願いが屋号に込められています。

イラストに沿って消しゴムはんこをカッターで削り、絵柄の版をつくる
制作はもっぱらご自宅で行っているとのこと。まず植木さんの夫が布を裁断。植木さんが描いたイラストをもとにした、手作りの消しゴムはんこによるプリントで絵柄を作ります。輪郭や色ごとに異なる版を浮世絵のように重ね、熱で定着させたのち、植木さんとその母のミシン縫製で仕上げます。
「まさしく家内制手工業ですね。」と植木さんが語るように、家族の連携によって仕立てられた製品には、独特の温もりが感じられます。裏地に伝統的な会津木綿を用いるなど、見えない部分のこだわりも欠かしません。

様々な動物をモチーフにした可愛らしいとイラストと、手押しならではの版のズレや色の揺らぎ。量産品にはない一点ごとの微かな差異が、ブックカバーに固有の表情を与えています。

ブックカバーを中心に、書籍やカレンダー、手ぬぐいなど関連商品が所狭しと並ぶ店内
店内の棚には、文庫本や新書、大判のガイドブックまで、様々なサイズに対応したブックカバーが並んでいます。当初は文庫サイズのみでしたが、店頭で寄せられるお客様の要望に応えていくうちに、現在の豊富なバリエーションが揃いました。

本を肩にかけて持ち歩ける「ポシェット型ブックカバー」も発売
近年は海外からの旅行客が増えていることもあって、新たに洋書サイズのカバーも用意されています。現代の欧米などでは本をカバーで包む習慣がほとんど残っておらず、ブックカバーという存在自体が外国人観光客の目には珍しく映るようです。丁寧な手仕事から生まれる日本ならではの文化として関心を集め、特別な土産物としても喜ばれています。

「散策しながら谷中の魅力を見つけてほしい。」と語る、店主の植木ななせさん
平日は制作に力を注いでいるため、同店の営業は土日が中心。店を訪れたあとに、そのまま周辺の散策へと繰り出すのも谷中の楽しみ方です。
実は近年、谷中には古書店や独立系の小規模書店が増えており、本を愛する人々にとって巡りがいのある街となっています。「谷中銀座のような賑やかな通りもいいですが、少し細い路地に入って、目的を決めずに歩いてみる方がこの街の魅力をより味わえると思います。」と植木さん。
隣接する根津や千駄木を含めた「谷根千」エリアは、寺院や古い家屋が並び、歩くたびに異なる表情を見せてくれます。ここで手に入れたお気に入りのカバーを本にまとわせ、路地裏を気ままに探索する小さな旅へ―。「旅するミシン店」は、そんな谷中散策の出発点にぴったりの場所です。
旅するミシン店
住所:東京都台東区谷中7-18-7-1F
アクセス:日暮里駅から徒歩5分
HP: https://tabisurumishinten.com/
SNS: https://x.com/tabisurumishin
https://www.instagram.com/tabisurumishinten/?hl=ja
https://www.facebook.com/tabisurumishinten
*営業時間や定休日についての詳細は、上記のリンクからご確認ください。